門田は図書館で臨也を強く抱き締めていた。臨也は何も言わず、門田の背に優しく手を添えている。ようやく身じろぎして力を抜いた門田に、臨也が微笑んだ。外はいつの間にか灰色が取り払われ、窓から差し込む西日に、臨也の色素の薄い瞳が夕焼け色に染まっていた。門田はしばし、その小さな夕日に見とれた。 「何?ドタチン」 「いや…帰ろうぜ」 門田も臨也に微笑んだ。 二人は恋人のように手を繋ぎ、夕焼けの中を帰った。帰り道も臨也は無言だったがご機嫌で、時折楽しそうにスキップをする素振りさえ見せた。 俺たちは二人でいる時、秩序の中の無秩序だ。高校生、同級生、男とかいった枠組みから抜け出して、二人でいる時何からも自由だ。友人のようでもあり恋人のようでもある。しかし、友人でもなければ恋人でもないのだ。 門田はそれでいいと強く思った。 人間の秩序が好きなのは、秩序に美しさがあるからだ。お前はそう言ったが、見ろ、無秩序だってこんなに美しい。そこに一条の光が射すだけで、こんなにも芸術だ。 門田は晴れ晴れとした気分で深呼吸をした。梅雨の晴れ間の爽やかな空気が、胸の内を満たしていった。