高尾は乳白色の空間を走っている。白い闇に視界をふさがれ、そこが狭く閉じられた場所なのか、永遠に広がっている場所なのかもわからない。空も地面も壁もないようだが、走っているのだから地面はあるのかもしれない。乳白色の空気は泥のように重たい。足を上げると引き留めるように絡みつき、下ろすと踏み応えなく沈み込む。何かに追い掛けられているわけでも、何かを追い掛けているわけでもないのに、一歩一歩、必死で進もうとしている。思い通りに動かない体に苛立って声を上げるが、それすらものったりとした白色に飲み込まれ、まるで間延びした声にしかならない。すべてはスローモーションで、これならいっそ止まった方がマシだと思う。しかし、止まることは許されない。例え真っ白な世界でも、時が止まることはないのだから。