Why are you not a cat?



(中略)


 カラ松の予測どおり、そこには多くの地底猫が集まっていた。この前と違うのは、皆正装らしき豪奢な服に身を包み、直立不動で円形劇場の真ん中を向いて立っているところだ。そして、彼らの視線の先、すり鉢の底に作られたステージには、真っ白な礼服姿の猫化した一松と、美しいドレスに身を包んだ青い毛皮のほっそりとした猫――。二人は向かい合って立ち、今まさに、口づけを交わそうとしているところだった。カラ松は、何を考える間もなく飛び出していた。
「その結婚、ちょっと待った!」
 劇場の猫たちの視線が、一斉にこちらを向いた。昨晩ここでどんちゃん騒ぎをしていた猫と同じものとは思えない鋭い眼光、油断のない表情。不意のことにもかかわらず、彼らは騒ぐことなく身を屈め、訓練された軍隊のように一瞬で戦闘態勢に入った。劇場の真ん中に立つ一松と姫の前には、見るも屈強な地底猫が十匹ほど立ちはだかっている。姫は幾分青ざめた顔だったが、気丈に顔を上げてカラ松を見据えていた。一松は、焦点の合っていない目でぼんやりとその姫の横顔を見つめている。
「一松!」
 カラ松は叫んだ。後ろで十四松がおろおろしているのがわかるが、飛び出してしまったものはもう後には引けない。
「一松、迎えに来たぞ!」

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