恋のブザービート
三月。冷たい風の中にも、時折温んだ空気が混ざり始めた。桜のつぼみは深々と呼吸し、そこかしこで着々と春本番に向けた準備が進められている。今日、木村たちは秀徳高校を卒業する。
後輩の女の子に花をつけてもらい、校門を潜る。もしかしたら、この門を潜ることはもう二度とないのかもしれない。その可能性に気付きつつも、木村にはまだ実感が湧かないでいた。
そわそわとした気配の教室に入る。
「おはよー」
「おっす」
「今週のマガジン見た?」
いつもと同じように挨拶を交わし、いつもと同じように机の間を抜けて自分の席へ向かう。皆、今日が最後だと知っていて、敢えて普段どおりに振舞っている。
「よお」
宮地はもう席に着いていて、いつもと同じように片手を上げてぶっきら棒な挨拶を寄越した。
「おはよ」
宮地の前の席に腰を下ろす。空っぽの机が頼りなく揺れた。あの日、ケンカ別れをしてから、直接顔を合わせるのは初めてだ。もちろん腹立たしさなどとっくの昔に消えてしまっているが、宮地は若干気まずげだった。
「合格、したよ。木村は?」
「おお、おめでとう!俺も受かってた」
木村が笑顔を向けると、宮地は強張っていた表情をほっと緩めた。
「や、やったな……!おめでとう!」
そして、鼻を少し触って、喉を鳴らすような空咳をし、ためらいがちに口を開く。
「あーあのな、木村。あの日、ごめんな、怒鳴ったりして」
「ううん。俺も言いすぎた。悪かったよ」
「いや……あのさ、受験の前日、高尾がメールくれたんだ。『木村さんに聞きました』って。正直、すげぇテンション上がったわ。ありがとな」
「ちゃんとメール返したか?」
「うん、返した。そんでな、決心した。俺、諦めねーよ」
「おう」
「今日、高尾に言うわ」
「そうか」
宮地は静かに微笑んだ。
「ありがとな」
「いいんだよ」
決意の浮かぶその大きな瞳に、木村も静かに微笑み、頷き返した。
「卒業生、入場」
拍手に迎えられ、三年生がぞろぞろと体育館に入場する。ずらりと並んだ在校生の目が見つめる中、前を向いて、胸を張って歩く。目の端に、高尾が半身を捻ってこちらを見ているのが映った。木村と目が合ったのに気付くと、目元を緩ませて小さく手を振る。
(ちゃんと前見て座れよ)
木村は少し口角を上げてそれに応える。
嫌でも目につく、姿勢のいい緑髪が見えた。膝の上に、巨大な黒熊のぬいぐるみが乗っている。緑間はすまし顔で前を向いているが、やだモンの皿のように開いた目がこちらをじっと見ていて、木村はパッと視線を逸らした。
(よりによって今日のラッキーアイテムはあれかよ。でけーんだよ!おは朝空気読め!)
いつかは、あの緑間の変人ぶりも懐かしく思うようになるのだろうか。現実味の伴わないまま、据わりの悪いパイプ椅子に腰を下ろす。
式は粛々と進んだ。高校三年間の思い出が、頭を駆け巡った。修学旅行、体育祭に学園祭。クラスで楽しかったこともたくさんあるが、やはり木村の脳裏には、バスケ部での出来事ばかりが浮かんだ。
耳に馴染んだバッシュのスキール音、ボールを突く音、むさ苦しい野郎共の掛け声、一際響く宮地の怒声。それらは剥き出しの板張りと高い天井に独特の響きで鳴り渡り、木村たちの体に染み込んだ。
今、床中に緑色のシートを敷かれ、パイプ椅子のずらりと並ぶ体育館には、進行の先生の少し硬い声が響いていた。殺したような咳払い、パイプ椅子の軋む音、衣擦れの密やかなさざめき、黒い学ランとセーラー服、いつもよりきれいな格好をした先生、ハンカチを握り締める卒業生の母親たち。何もかも、呼吸すら潜めた面持ちでいる。部活で見慣れた体育館よりたくさんの人が集っているはずなのに、やけに広く、よそよそしく感じられた。
もうここは、自分たちの場所ではなくなってしまった。
そう悟った途端、ようやく「卒業」の二文字が現実となって木村の前に立ちはだかった。思い出の詰まった扉に手を掛け、押し開いて出て行かなければならない。
木村は少し打ちのめされた気分になり、仲間に縋るような気持ちで斜め後ろに座った宮地へと意識を向けた。宮地は、身じろぎ一つしなかった。
式が終わると教室で卒業証書を受け取り、ひとしきり同級生と写真を撮り合って別れを惜しんだ。最初はクラスで、そして教室を出て他クラスの友人を渡り歩くうちに、気付くとバスケ部の面子が揃っていた。
「部室に行くぞ。一二年生が待ってくれているらしい」
大坪の掛け声で、三年元バスケ部がぞろぞろと移動する。隣で、宮地が細く長く息を吐き出すのがわかった。木村は宮地の背中に手を当てて、力強くバシッと叩いてやった。
部室では耳が割れそうなほどたくさんのクラッカーに迎えられた。散らかった荷物はすべて隅に寄せられ、ぽっかりと空いた部室の真ん中には、大量のお菓子とジュースが並べられていた。
新部長の涙ながらの乾杯の音頭を契機に、ドンチャン騒ぎが始まった。後輩たちが入れ替わり立ち替わり、先輩一人ひとりに挨拶にやってくる。元部長の大坪のところにはやはりひっきりなしに後輩たちが訪れ、木村の元にも何人かやってきた。少し遠巻きにされがちな宮地は、コーラを飲みながら、他の三年と今だから言える恥ずかしい思い出話に興じていた。
そこに、おずおずと近寄っていく一年がいた。
「み、宮地先輩」
「ん?」
宮地は笑いで滲んだ涙を拭いながら振り向いた。
「あ、あの、俺、宮地先輩にどうしてもお礼言いたくて」
少し背の低い、三軍で頑張っているおとなしい一年生だ。
「俺、体力ないし、体格も劣ってるし、未経験者だったから他の人に置いていかれがちで、少しくじけそうになっていました。けど、夏ぐらいに宮地先輩が声掛けてくれて……俺のフォームの直したらいいところ、教えてくれましたよね。俺みたいな、いつも体育館の隅っこで練習してるようなやつのこと、ちゃんと見てくれてるんだって思って、俺、すげぇすげぇ嬉しかったんです。宮地先輩スタメンだし上手いし、憧れていたんで余計に……あのことがあったから、俺、今もバスケ部続けられています。本当に、ありがとうございました!」
びしっと頭を下げる彼に、宮地は大きな目を丸く見張った。
かの一年生に勇気をもらったのか、何人かの後輩たちが俺も俺もと宮地の元へ集まってきた。
「宮地先輩、憧れでした」
「俺も宮地さんみたいな先輩になりたいっす!」
「宮地さん怖かったけど、あなたがいたから頑張ってこられました」
「かっこよかったです!」
「一年が入ってきたら、宮地先輩にしてもらったように面倒見てやりたいと思います」
宮地は最初目を白黒させていたが、にやにやしながら見ている三年生の視線に気付くと大いに照れて、
「てめえら見せもんじゃねーぞ!木村も笑ってねえでパイナップル寄越せ!」
と赤い顔で怒鳴った。
「ひゅー、宮地さんモテモテじゃないっスか!も~、俺が一番にお礼言おうと思ってたのに、和成妬いちゃう!」
そこに高尾がそんな茶々を入れるものだから、宮地はますます赤くなってしまった。
「あーくっそ暑ぃ!てめえらのせいだかんな!ちょっと外出てくる」
両手で顔を扇ぎながら立ち上がり、ちらっとこちらを見るので、ついてこいということなのだろうと木村も腰を上げた。
熱気のこもった室内から外に出ると、少し肌寒い空気も心地良く感じた。部室内の喧騒が遠くに聞こえる。
「ったくあいつら……」
まだ拗ねたような顔の宮地に、木村は笑った。
「な、言ったろ。後輩たちはみんなお前の優しいとこに気付いてんだよ。よかったな」
ふん、とそっぽを向くが、照れ隠しなのは見え見えだった。
少し赤らんできた空を見上げる。雲が流れている。まだ咲いていないはずの桜のにおいが、風に紛れて薫ってくる。
「楽しかったな」
同じく空を見上げていた宮地が、ぽつりと呟いた。
「三年間、楽しかった。クラスでも、バスケでも、木村とずっと一緒でよかったよ。緑間と高尾じゃねえけど……相棒だと思っている。ありがとな」
木村は言葉に詰まった。
「そんな……俺の方こそ……」
「卒業しても、時々は会って俺のケツ叩いてくれよ」
「あ、当たり前だろ!相棒だからな!」
二人、顔を見合わせて笑う。どちらからともなく手を上げ、バスケで互いを称える時のように、パシッと手のひらを合わせた。
「……帰る時に言うから」
「おう」
「二人きりになれるかな」
「俺が上手くやってやるよ」
「うん……うん、ありがとな」
宮地は静かに心を落ち着け、その時に向けて準備をしているようだった。木村は、宮地の心を乱さぬよう、黙ってそれを見守った。
と、その時。
「宮地さーん、木村さーん」
能天気な声が無遠慮に二人の間に割って入り、宮地の肩がビクリと揺れた。
「二人して抜けるとか、寂しいじゃないっスか。なあ真ちゃん」
「俺は別に寂しくなどないのだよ」
「あはははは真ちゃんのツンデレー」
高尾が緑間を連れてやってきたのだ。静かな空気はたちまち霧散し、宮地は動揺を隠せない。やれやれ、と木村は嘆息した。心の準備は後でやり直しだ。
「式の時、木村さんやだモン見てビビッてたっしょ!宮地さんとかキレそうな顔になってたし」
ぶひゃひゃひゃと笑う高尾は、緑間がしっかりと抱いている巨大な黒いぬいぐるみをバシバシと叩いて、緑間にやめろ!と怒鳴られている。
「んなでけーもん式に持ってくるなよ。おは朝だろ?他になかったんか」
木村が文句を言うと、高尾は待ってましたと言わんばかりににやにや笑いを強くした。
「いやいやそれがどうして。蟹座の今日のラッキーアイテム、『一番お気に入りのぬいぐるみ』だったんですよ。これ!宮地さんに取ってもらったのが!一番のお気に入り!」
「黙れ高尾。俺はこの愛らしいフォルムと大きさが気に入ってるだけなのだよ」
「照れんなって!」
宮地は不機嫌そうに眉間に皺を寄せて舌打ちをした。
「照れんなって」
木村も宮地にそう言って、高尾と顔を見合わせて笑った。緑間と宮地は揃って憮然とした表情で、それが一層二人の笑いを誘った。
ひとしきり笑った後、高尾が改まって二人に向き直った。
「あの、ここまで追い掛けてきたのは、お二人にちゃんとお礼言いたくって」
緑間も、憮然とした表情のままながら姿勢を正した。
「俺ら二人一年レギュラーで、俺も緑間もこんなだし、生意気だって思われたこときっとたくさんあったと思います。けど、呆れながらも怒鳴りながらも、絶対見捨てるってことはしなかった。だから俺ら、最後まで食らいついていけたと思っています。夏ぐらいからは部活ん中だけじゃなくてちょっと近付けた気もして……俺もそうだけど、緑間も長男だから、初めてできたお兄ちゃんみたく思ってました。先輩ら卒業しちゃうのホントすげー寂しいけど、俺らこれからもっと強くなるんで見ていてください。そんで、これで終わりじゃなくって、また秀徳高校バスケ部に激飛ばしに来てください」
ここで高尾は少し言葉を切った。緑間と並んで、背筋を伸ばす。そして、揃って深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。ご卒業、おめでとうございます」
言葉を失っている二人を前に、高尾は顔を上げていつものへらりとした笑顔を見せた。
「すんません、お語らいのとこ邪魔しちまって。ま、宴もたけなわなんで、早く戻ってきてくださいね」
んじゃ、と二人が背を向けるのを、宮地の声が遮った。
「た、高尾!」
まさか、と思い宮地を見る。小鼻が少し膨らみ、肩が上がっている。いつもよりつり上がった目には高尾しか見えていなかった。
駄目だ、テンパってる。こいつここで言う気だ!緑間も俺もいるのに、おいバカ!
焦る木村には目もくれず、宮地は高尾の左腕をガッと掴んだ。
「い、てぇスよ宮地さん。どうかしました?」
驚いて目を白黒させている高尾を前に、宮地はもっと混乱している。
「お、俺、どうしてもお前に言っておきたいことがあって……あーあのですね、夏前ぐらいからずっと気になってたんだけど……えっと、お前のでけぇ笑い声とか調子いいとことか、最初の頃こそ癇に障ることもあったんだけど、お前のそういうとこのお陰で緑間がうちのチームに馴染めて、結果秀徳にとってプラスに働いたこともあって、計算か天然か知らねえけど、俺にはできねえことだからちょっと尊敬してて、だな。緑間とお前もいい相棒になったと思うし、これで安心して卒業できるわ。っていや、そういうことが言いたいんじゃなくて……」
駄目だ、グダグダだ。
木村は見ていられなくなって頭を抱えた。高尾は訳がわからないというようにポカンとしている。緑間も同じような顔をしている。
「えーっと、お前へらへら笑いに紛れてちょっと頑張りすぎるぐらい頑張るとこあるし、しかもそういう頑張ってるとこ人に見せないようにしてるけど、俺はそれが心配で、しんどいこととか辛いこととか、弱ってるとことか、俺には見せてくんねーかなって思ったり……そんなふうに高尾の特別になりたくて……いや、あの、つまり……つまり、好きなんだよ高尾。好きです。付き合ってください」
あ、泣いた。
宮地は高尾の腕を強く掴んだまま、顔を見られまいと深く頭を下げた。緑間も木村もあっけに取られて言葉も出ない。高尾も呆然としている。
静寂の中、宮地の鼻をすする音だけが聞こえた。
高尾はようやく思考が追いついたのか、じわじわと赤くなった。
「マジ、ですか」
宮地は一際大きく鼻をすすり上げ、顔を伏せたまま頷いた。空いている左手の甲で、乱暴に涙を拭う。
「ご、ごめん。もう振って。振ってくれたら、諦めるから」
ひどい涙声だ。
木村は縋るような気持ちで高尾を見た。頼む、何か言ってやってくれ。
永遠にも感じる沈黙の後。
「ヤバイ、ときめいた」
高尾がぼそりと呟いた。彼の顔は真っ赤だ。宮地に腕を掴まれたまま、口元を右手で覆い隠し、明後日の方向を向いた。
宮地は頭を下げた体勢で固まっている。
「ど、どうしよう、俺なんかすげえときめいちゃった。今、心臓ヤバイんスけど」
だって宮地さんかわいいんですもん。
そう早口で呟き、あー!どうしよう!と頭を掻きむしる。
そして、
「宮地さん、顔上げて」
高尾の声に、宮地が恐る恐る顔を上げた。そこには、優しい表情の高尾がいた。慈しみと愛しさのこもった視線を、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの宮地に注ぐ。
「ズリィっすよ、宮地さん。そんなんに俺弱いって、わかっててやってんですか」
「え、え?」
「えーっと、俺でよければ、よろしくお願いします?」
宮地はポカンと口を開けて高尾を見る。
「え?それってどういう……」
「だーかーらー、俺を、宮地さんの恋人にしてくださいって」
言わせんなよもう!と、高尾は赤い頬を膨らました。
宮地は信じられないような顔でしばらくまじまじと高尾を見、そしてぱっと木村の方を見た。
「き、木村~」
木村に駆け寄り、抱きついてくる。
「ど、どうしよう、俺……俺……信じらんねぇ……マジか。ありがとう、マジありがとう、うえ……」
木村の肩にしがみつく手が震えていたが、その背中を抱き、頭を撫でてやる木村の手も震えていた。まだ少し呆けている。何が起きたのか、よく理解できていない。しかし、本気で泣いている宮地の背中を宥めているうちに、次第にふつふつと喜びが湧き上がってきた。
「おい宮地、やったじゃねえか」
「うん」
「がんばったな」
「うん、うん」
よかったなあ、頑張ったなあ。
少し冷静になって、そこはお前、高尾を抱き締めるところじゃなかったのかよ。と突っ込みを入れつつも、こみ上げる笑みを抑えることはできなかった。
高尾は高尾で緑間のところへ駆けていって、彼が抱えているやだモンのお腹に顔を埋めている。
「どうしよう真ちゃん!」
キャーと照れる高尾を、緑間は呆れた目で見下ろした。
「ふん、お前はいつも『宮地さん、宮地さん』とうるさかったからな。いずれこうなると、俺にはわかっていたのだよ」
「嘘付けこの鈍チンが!」
騒いでいるところに、大坪が出てきた。
「なかなか帰ってこないから、みんな気にしているぞ。ん?どうした?」
木村に泣きつく宮地、緑間にしがみつく高尾を見て、大坪は首を傾げる。
「あ、ああ、悪い。こいつら落ち着いたらすぐ戻るから。つか大坪には後で説明するわ」
な、宮地。と了承を求めると、宮地は木村の肩に顔を埋めたままこくこくと頷いた。
「うおっ、さびぃ」
「キャプテーン、宮地さんらいました?」
「ばっか、今のキャプテンはお前だろーが」
「つか高尾と緑間も何やってんだよ」
がやがやと、銘々勝手なことを言い合う声が聞こえてきた。戻ってこないスタメンたちに焦れたのか、バスケ部の面々が部室からそぞろ出てきたのだ。そしてやはり、このカオスな状況を目にして、大坪と同じように何とも言えない表情になる。その内、一人が宮地の泣いているのに気付いて声を上げた。
「あ!宮地さん泣いてる!」
「え、宮地さん?」
「み、宮地さん!」
「宮地さぁん!」
宮地の涙を惜別の涙と勘違いした後輩や同輩たちが、木村にしがみつく宮地の周りに次々と駆け寄った。
「宮地!」
「宮地さん!」
鬼のように怖かった宮地の涙は、全部員の涙を誘った。もらい泣きが伝染し、皆肩を抱き、背中を叩き合って泣いた。
「みんな、今までありがとう」
「俺、秀徳バスケ部に入ってよかった」
「秀徳の魂は引き継ぎます」
「不撓不屈の精神で」
大坪も泣いている。高尾も泣いている。緑間も、多分泣いている。
男泣きする後輩たちに囲まれた宮地と目が合った。涙は止まらないらしいが、笑っている。
宮地、見事なブザービートだった。緑間のシュートのようにスマートではないが、がむしゃらで、なりふり構わず、不恰好ながらもゴールにしがみついた諦めの悪いシュート。それは確かに木村の胸に残り、高尾の心に届いた。
木村は空を仰いだ。美しい夕日が、皆を橙色に染め上げていた。期待と予感に溢れた春の気配が降り注ぐ。それは、静かな海のように木村の心を満たし、視界を揺らした。
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→ fin.
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